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アスリートの健康管理や食事が知りたい!/元プロテニス選手・杉山愛さん(前編)

 プロテニスプレーヤーとして17年間プレーし、日本人初のシングルス・ダブルス同時世界トップ10入り、グランドスラム62大会連続出場など、数々の記録を残した杉山愛さん(42)。選手時代の健康管理や、引退した現在の生活について伺いました。

体格のディスアドバンテージをはねのけるために、体をフル活用する

――大きなケガをせず長く現役を続けておられましたが、その秘けつは何でしょうか?
 ケガや病気をあまりしなかったことは、グランドスラム62大会連続出場の記録を残すことができた大きな理由の一つだと思います。小柄で体格のディスアドバンテージがあったので、この体をフル活用するために、体のケアには他の選手よりも気をつけていたと思います。金銭的には負担がかかりますが、トレーニングのためのトレーナーと、体をケアしてもらうトレーナーとを別々に契約して、特に体のケアのためのトレーナーには毎回ツアーに同行してもらい、マッサージなどをお願いしていました。ただ、トレーナーに任せっきりというわけではありません。やはり自分の体ですから、まずは自分の感覚で、疲れがどのくらい体に残っているかということを把握し、トレーナーとコミュニケーションをとることが大事でしたね。

――ご自身でケアされることもありましたか?
 自分でもその日の疲れはその日のうちにとることを意識していました。お風呂は最低30分、長くて1時間半くらい半身浴を行って老廃物を出すようにしていましたし、ストレッチポールでストレッチしたり、ふくらはぎや足の裏を自分でマッサージしたり。その日の体調や気分に合わせたバスソルトやマッサージオイルを、自分で調合していました。リラックス効果やウォームアップ、ウェークアップ効果があるものなどを、使い分けていましたね。ヨーロッパではアロマが医療として扱われていることもあって、自分でもよく使っていました。

試合がない日は23個、試合がある日は33個のルーティンワーク

――体のケアのほかに行っていたことはありますか?
 体のケアに加えて、毎日のルーティンワークも重要な要素でした。試合がない日は23個、試合がある日はプラス10個で33個のルーティンワークを決めていました。ルーティンワークを日々積み重ねていく中で、自分の心と体と対話をするようにしていたので、今までけがや病気をせずにやってこられたんだと思います。
 例えば試合がない日は、練習前のウォーミングアップや練習後のクールダウンの時のルーティンがあります。体の動かし方や温め方、ジムでストレッチして筋肉に刺激を入れて、っていう流れですね。試合の有無にかかわらず行っていたのは、朝晩の呼吸法と半身浴などです。呼吸法とイメージトレーニングを合わせたものを、朝晩30分やっていました。この呼吸法がすごく自分にしっくりきていたんです。

   

――どのような呼吸法ですか?
 そもそも呼吸法を始めたきっかけは、自分で緊張をコントロールするためでした。実は私、すごく緊張するタイプなんです。試合の前はもちろん、練習でも、「いい練習がしたい」と思うと、相手によっては緊張することがありました。そういう自分とうまく向き合っていく方法はないかと探している中で、塩谷信男さんの「100歳だからこそ、伝えたいこと」という本に出合ったんです。その本の中で、「正心調息法」という腹式呼吸の方法が紹介されていました。簡単に説明すると、へその下の丹田を意識しながら腹式呼吸をするというものです。酸素や良いエネルギーを体の中に入れてから、ぎゅっと肛門(こうもん)に力を入れて、下っ腹にエネルギーをためるんです。その状態で良いイメージを作り上げていきます。

良いイメージを、実際に起こそう

――どのような点が良いと思ったんですか?
 良い状態で練習できているイメージを思い浮かべながら呼吸法を行っていたら、実際にそのイメージとかなり近い、すごく良い練習ができたんです。脳はだませるんですよね。実際に起きていることとイメージして起きていることの境目がわからないというか。思ったことって実際に起こりやすいじゃないですか。「嫌なことが起きそう」とか「これちょっと失敗しちゃうかも」って思うと、悪い方に引っ張られ、「うまくできた」ってイメージすると、良い方に引っ張られる。事前にイメージで体感するので、現実でも起こりやすい状態になるのかな、と自分では整理、理解しています。良いイメージを持つことは日常生活においても重要で、引退した今でも、気分や調子が乗らない時こそ、自分が楽しく過ごしているいいイメージを持って、「現実に起こそう」「起きたらいいな」という気持ちでやっています。

――どのようにしてルーティンワークを確立されたのですか?
 25歳の時にスランプを迎え、「もうやめたい」と思うようなどん底に落ちていました。そこからもう一度やり直し、仕切り直しということで、初心に戻り、母にコーチを頼んで2人でやっていこうと決めました。スランプから半年~1年ほど経ったころ、少し良い兆しが見えてきたかな、という時に、自分に何が合うのか、何をしたら良いパフォーマンスができるのか、というのを探り始めたんです。トライ・アンド・エラーを繰り返しながら、最終的にできあがったのが、23個、33個のルーティンワークです。いきなりできあがったものではなくて、探り探りやっていく中で、最終的に落ち着いたものです。

――ケアの方法やルーティンワークは人それぞれ?
 選手には、それぞれその人の体に合ったケアの方法やルーティンがあります。どういうケアをしたら良いパフォーマンスに結びつくか、というのは人それぞれ。試行錯誤しながら自分で見つけていく部分だと思います。私も、ツアーを回りながら「これはダメなんだな」「自分には合わないな」と思ったり失敗したりしたものもありましたし、そういう中で自分の方法を確立していったのだと思います。

母の「食育」で、食のバランス感覚を養った

――食事はどのように気をつけていましたか?
 年間10カ月くらいがツアーのシーズンなのですが、そのうち8カ月くらいは海外で過ごしていて、そのほとんどがホテル暮らしなんです。だからどうしても外食が多くなっていました。そんな中でも、「バランスの良い食事」をとることは、感覚的に身についていました。小さいころから、母が炭水化物、たんぱく質、ビタミン、ミネラルをバランスよくとるような食事を並べてくれていたので。今で言う「食育」みたいなものでしょうか。試合の前日は、燃えてすぐエネルギーに変わる炭水化物を多めにとることを心がけていましたし、試合の直前は消化に負担をかけないように重たいものは避けていました。試合の後は筋肉が疲れるので、それを補うために良質なたんぱく質をなるべく早くとることを意識していました。ただ、食事は楽しむことも大事です。ツアーに出ていると、食事くらいしか息抜きがないんですよ。だから、楽しみながらバランスも考えて、ということを心がけていました。
 テニス界では、比較的早くから科学的な食事を採り入れていたんです。往年のプレーヤー、マルチナ・ナブラチロワさんは「チーム・ナブラチロワ」を組んで、トレーナーだけではなく、管理栄養士やメンタルトレーナーを連れてツアーを回っていました。それがもう30年前のことです。ワールドツアーということもあり、テニスは競技自体が最先端なところで行われていたんですね。

小食だったジュニア時代に
「食」の大切さを実感

――ジュニア時代はどうでしたか?
 ジュニア時代は本当に小食でした。夏の試合や大会の時に母がおにぎりを持たせてくれたんですけど、暑すぎて食べられず、ちょっとした夏バテみたいになっちゃって。そのまま試合に入ったら、パタッとエネルギーが切れたみたいに体が動かなくなりました。燃やしてエネルギーにするものがなくなっちゃったんだな、ということを身をもって経験して、やっぱり食は大切だという理解を深めていきましたね。私の場合、一度失敗しないと身につかないんですよ。
 ジュニアの時は食べられなくて体の線が細かったけれど、高校生になってからはかなりしっかり食べるようになりました。現役の時は、1食2人前くらいは普通に食べていましたね。ただ、午前と午後の2回練習してランチを挟む時は、腹6、7分目に抑えていました。やっぱり食べ過ぎると動けませんから。そういう時は、「ちょこちょこ食べ」と言うんでしょうか、1日4、5食に分けて食べていました。

――高いパフォーマンス力を発揮するために、何が一番大事でしたか?
 メンタルはもちろんすごく重要な部分を占めますけれど、それだけではなくて食やケアを含め全てが大事です。体が充実していないと良いパフォーマンス、良い練習はできない。「心技体」って言いますけど、やはり全てのバランスが整っていないと、良い結果は残せないですね。

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プロフィール

杉山 愛(すぎやま・あい)

1975年生まれ。元プロテニス選手。17歳でプロに転向、34歳で現役を引退。WTA最高ランキングはシングルス8位、ダブルス1位(日本人初)。現在は自身のスポーツクラブ「Palm International Sports Club」で指導者として活動するほか、テレビ番組のコメンテーターとしても活躍

自測自健とは

自分の体の状態を自分で測る。健康を保つための新習慣を考える

健康状態を知るためには、血圧や体重、体脂肪率など、さまざまなデータを測ること。
しかも、人間ドックや健康診断の時ではなく、毎日「自分で測る」ことが大切です。

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