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アスリートの健康管理や食事が知りたい!/元プロ野球選手・鈴木尚広さんに聞きました(前編)

 代走での通算盗塁数、日本一。「走塁のスペシャリスト」と呼ばれた元プロ野球・巨人の鈴木尚広さん(40)。役割上、急な出番に臨むための準備には十分な時間をかけていたとのこと。そんな鈴木さんに日頃の健康管理について聞きました。前編では、現役時代の体調管理の方法をご紹介します。

静岡~東京を往復して、体のケアを受けに行く

――現役時代の体のメンテナンス方法は?
 プロ野球の世界はもちろん、スポーツマンは生身一つで勝負しなければなりませんから、体のコンディション勝負になるところがあります。野球は年間143試合ありますから、それだけ体力的、精神的な消費が大きい。春先の暖かい時期はいいですけれど、梅雨の時期や寒暖差があるときなどは特に、体調管理に気をつけていました。
 球団にもマッサージをしてくれるトレーナーがいますが、僕はパーソナルトレーナーを付けていました。試合が休みの月曜日には必ず、トレーナーの元にマッサージをしてもらいに行く。体の調整など、野球のパフォーマンスにつながるケアをしてもらいます。これは欠かすことができないもので、例えば静岡で試合があるときには、前日の月曜日に移動休みで静岡にいても、都内まで戻ってきてマッサージしてもらい、また静岡に行く、ということもありました。体のケアに関して言えば、どれだけやっても、これで終わり、というものではないんですよ。

――若いときから気をつけていたんでしょうか?
 20代の体調と30代の体調って全然違いますよね。体や健康について、20代から気をつける部分もありましたけど、実はそんなに考えていたわけではない。30代に入ってすごく目を向けるようになりました。20代のころは若さでカバーできていても、30代になると疲労度は増してくるし、寝ても疲れがとれにくくなる。だから、今後も高いパフォーマンスを行うために何が必要か考えました。食事や睡眠、サプリなど、いろいろ試行錯誤しましたよ。

体と気持ちを整えて挑むための、7時間という準備時間

――試合前の準備には、長い時間をかけていたそうですね
 僕は代走というポジションにいましたから、試合の中の勝負が1回しかないわけです。出番がない日だってある。若い頃に比べると当然失敗が許されないわけですから、年齢を重ねるほどに試合に備える準備が増えました。最終的にたどり着いたのが、試合の7時間前から準備を始める、というルーティンです。ただ、準備のためにやるべきことが重なった結果7時間になったということで、やみくもに長い時間をかけて準備すればパフォーマンスがアップするわけではありません。僕のように長時間かけて準備する人もいれば、1時間や2時間で済む人、全く時間をかけなくてもいい人もいますから。人それぞれなんです。でも、そういう人と自分を比較はしなかったし、自分がやってきたことに誇りを持っています。

――7時間という時間の中で、どのような準備をされていたんでしょうか?
 まず、体のケアから入ります。ケアをしながら、その日の自分の体のコンディションを知る。例えば、ストレッチしてもらって、今日はスムーズに体が動いているなとか、ちょっとお尻が張っていて動きが悪いなとか、体の感じ方をみる。そして、動きが悪い部分を1時間くらいかけてマッサージでほぐしてもらう。また、対戦相手を知らなければいけませんよね。相手はどういうピッチャーなのか、どういった戦略で来るのか。映像を見たり、ベンチから実際に観察したり。これらに、実技やトレーニングを加えた時間をトータルして、7時間になりました。
 レギュラー選手とは運動量も緊張感も、感覚の部分でも全然違う。僕の場合、現状維持は退化を意味しますから、常に自分の伸びしろを広げるために、体力的にも体の使い方に関しても、スキルアップをしなくてはならない。また僕の性格上、切羽詰まった準備は後手を踏むんです。ちょっと時間が余るくらい、心に余裕が持てるくらいの準備をしておく。僕は時間のゆとりは心のゆとりだと思っていますから。試合中、急に「行け」って言われたときも、準備がしっかりできていれば体も気持ちも整って出番に臨めるんです。

野球以外では、自分を静かに温存しておく

――睡眠にも気をつけていましたか?
 睡眠はなるべく長くとっていましたね。移動時に仮眠をとる、練習の後に昼寝をするなど、とにかく体を休める。体力の回復には寝ることが一番いいと思います。よく7時間や8時間など、平均的な睡眠時間がいいと言われますけれど、決められたものをこなすことでストレスがたまることもある。だから睡眠時間は特に決めず、寝られるときに寝ていました。
 例えば、野生のライオンは狩りの時以外はあまり動かず、体力を温存して無駄なエネルギーを使わない。スティーブ・ジョブズも、毎日同じ服を着て、考えるエネルギーを無駄に使わないようにしていたそうです。それと同じで、試合は非常にエネルギーを消耗しますし、脳も使いますから、野球以外では自分を静かに温存しておく。余計なことを考えないようにして、睡眠でリセットするようにしていました。

――食事にも気をつけることがありましたか?
 炭水化物を先に食べると血糖値が一気に上がります。血糖値が一気に上がると気持ちが高揚しますけど、一気に上がるということは、一気に下がるということです。そうすると気持ちが落ち込んだり、やる気がなくなったり、眠気が出たりするんです。夕飯時は野菜や果物を先にとって、最後にご飯を食べるなど、食事のとり方には気をつけていました。
 また、食事量に関しては、カロリーよりも体重の増減で見ていました。体重が減るということは痩せてパフォーマンスが下がっていくということなので。毎日体重を量って、今日は量を少し抑えめにした方がいいかな、という感じで。たまには甘いものをご褒美的に食べたり、お酒を飲んだり、ということも楽しみの一つにしていました。

飛驒高山まで湧き水を汲みに行く

――水にもこだわっているそうですね
 水は天然のものしか飲まないんです。現役時代から始めて今も、往復8時間くらいかけて飛驒高山まで湧き水をくみに行っています。体の70パーセント以上は水分だから、水がいいと血液の循環や代謝が良くなって、体自体が良くなると思うんです。常にマイボトルに入れて持ち歩いていますし、遠征の時も1日1リットルって決めて、スーツケースに入れて持って行っていました。休みは月曜日だけですし、月曜日も体のケアに充てるので、飛驒まで水をくみに行くことは、なかなか頻繁にはできない。だから行くときは、150~160リットルぐらいの水をポリタンクに入れてきます。天然水なので、腐りにくいんですよ。部屋の中にいっぱい置いてあります。たまには、コンビニの水も飲んだりしますけどね。

――どのようにしてその水に行き着いたんでしょうか?
 20代後半くらいから、水を含め食材など、どんなものが自分の体に合うか試行錯誤を重ねてきました。新しいものを試してみたり、昔やっていたことを掘り起こしたりして、自分の引き出しとして持つようにしていきました。この水は、自分が良いと感じるもの、自分の体が澄み渡っていくと感じるものを探し進めていって、たどり着いたものですね。そこに価値を見いだすか見いださないかは、人それぞれだと思いますが、僕はそこに価値があると思ってやっています。

「オン」と「オフ」の使い分けが必須

――ご自宅で体のケアをすることもありましたか?
 球場にはお風呂とサウナがあり、トレーナーの先生もいて、アイシングやマッサージなどを受けることができましたから、ケアは球場で済ませて、家に帰ったときはあまり野球のことを考えないようにしていました。人の「オン」の時間って、限界があると思うんです。24時間気を張るって、なかなかできることではない。1日だけならまだしも、143試合と考えたら到底できません。僕たちは4万5千人という大観衆の前でプレーするわけですから、人に見られるオンの時間が多い。緊張状態にあると体が固まってくるし、頭も固まってくる。体調にも影響しますから、オン・オフの切り替えは、本当に大事なんです。

――ストレス発散法は?
 休みの日に気晴らしに散歩したり、友達や気心の知れた人たちと食事などに出掛けたり。カラオケに行って歌ったり、みんなでお酒飲んでワイワイがやがやしたり。好きなことをする時間が、自分の緊張をほぐしてパフォーマンスを上げる大事な要素だと思います。ある意味、オンの「仕事場」では、「鈴木尚広」を演じなければならない。プライベートでそういう風に過ごしていると疲れますよね。好きな場所、映画、音楽、本、なんでもいいんです。好きなものに触れていることが大事だと思います。

入浴剤を入れたお風呂でリラックス

――鈴木さんの好きなものとは?
 僕にとっては、お風呂がリラックスの場です。実は入浴剤が好きなんですよ。特にかんきつ系の香りのもの。ちょっと女子っぽいって言われますけどね(笑)。香りを嗅ぐことが好きなんです。香りを嗅ぐとき、呼吸が深くなるじゃないですか。息を深く吸い込むことで、気持ちがリフレッシュする。
 最近は、冬場は炭酸の入浴剤に保湿系の入浴剤を加えています。体温の急激な低下を防いで、保湿もできる。たまに、気分転換でバスソルトを入れて発汗を促します。シャワーで済ます人もいますけど、僕は、日本人にはお風呂は必要だと思っています。体のコンディショニングのためにも、リフレッシュするためにも。少年野球で教えるときも、子どもたちに湯船に入る習慣を身につけてほしいから、「お風呂に入りなさい」って必ず言っています。日常から少し離れた一人の空間を作ることは、すごく大事なことだと思っています。

――お風呂以外には?
 その他には、洋服が好きなので、洋服を買いに行くこともあります。敷居が高い、入りにくいお店ってあるじゃないですか。若い頃は、そういうお店でも堂々と振る舞うなど、雰囲気にのみ込まれないような自分を作る、ということをトレーニングの一環として行っていました。何万人という大観衆に見られる職業だったので、1人の人に見られて逃げるようではだめだと思って。緊張感がなくなってきたと思ったら、そういう場所に行って気を引き締めていましたね。

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プロフィール

鈴木 尚広(すずき・たかひろ)

1978年生まれ。プロ野球選手として20年間巨人でプレーし、2016年に引退。現在は野球解説のほか、講演活動も行う。著書に「失敗することは考えない 走る!盗塁哲学」(実業之日本社)。

自測自健とは

自分の体の状態を自分で測る。健康を保つための新習慣を考える

健康状態を知るためには、血圧や体重、体脂肪率など、さまざまなデータを測ること。
しかも、人間ドックや健康診断の時ではなく、毎日「自分で測る」ことが大切です。

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